2014年12月29日

姦姦蛇螺 3

意味がまったくわからんまま、二日後にオレとAは、Bのお母さんと三人である場所へ向かった。
Bは、前日にすでに連れていかれたらしい。
ちょっと遠いのかな…ぐらいだと思ってたが、町どころか県さえ違う。
新幹線で数時間かけて、さらに駅から車で数時間。絵に書いたような深い山奥の村まで連れてかれた。
その村のまたさらに外れの方、ある屋敷にオレ達は案内された。
でかくて古いお屋敷で、離れや蔵なんかもあるすごい立派なもんだった。
Bのお母さんが呼び鈴を鳴らすと、おっさんと女の子がオレ達を出迎えた。
おっさんの方は、その筋みたいなガラ悪い感じでスーツ姿。
女の子は、オレ達より少し年上ぐらいで、白装束に赤い袴。いわゆる巫女さんの姿だった。
挨拶では、どうやら巫女さんの伯父らしいおっさんは、普通によくある名字を名乗ったんだが、
巫女さんは『あおいかんじょ?(オレはこう聞こえた)』とかいう、よくわからない名を名乗ってた。
名乗ると言っても、一般的な認識とは全く違うものらしい。
よくわからんがようするに、彼女の家の素性は一切知る事が出来ないって事みたい。
実際オレ達は、その家や彼女達について何も知らないけど、とりあえずここでは見やすいように『葵』って書くわ。
だだっ広い座敷に案内され、わけもわからんまま、ものものしい雰囲気で話が始まった。
伯父「息子さんは今安静にさせてますわ。この子らが一緒にいた子ですか?」
B母「はい。この三人であの場所へ行ったようなんです」
伯父「そうですか。君ら、わしらに話してもらえるか?
 どこに行った、何をした、何を見た、出来るだけ詳しくな」


突然話を振られて戸惑ったが、オレとAは何とか詳しくその夜の出来事をおっさん達に話した。
ところが、楊枝のくだりで「コラ、今何つった?」と、いきなりドスの効いた声で言われ、
オレ達はますます状況が飲み込めず混乱してしまった。
A「は、はい?」
伯父「おめぇら、まさかあれを動かしたんじゃねえだろうな!?」
身を乗り出し、今にも掴み掛かってきそうな勢いで怒鳴られた。
すると葵がそれを制止し、蚊の泣くようなか細い声で話しだした。
葵「箱の中央…小さな棒のようなものが、ある形を表すように置かれていたはずです。それに触れましたか?触れた事によって、少しでも形を変えてしまいましたか?」
オレ「はぁあの、動かしてしまいました。形もずれちゃってたと思います」
葵「形を変えてしまったのはどなたか、覚えてらっしゃいますか?触ったかどうかではありません。形を変えたかどうかです」
オレとAは顔を見合わせ、Bだと告げた。
すると、おっさんは身を引いてため息をつき、Bのお母さんに言った。
伯父「お母さん、残念ですがね、息子さんはもうどうにもならんでしょう。わしは詳しく聞いてなかったが、あの症状なら他の原因も考えられる。まさかあれを動かしてたとは思わなかったんでね」
B母「そんな…」
それ以上の言葉もあったんだろうが、Bのお母さんは言葉を飲み込んだような感じで、しばらく俯いてた。
口には出せなかったが、オレ達も同じ気持ちだった。
Bはもうどうにもならんってどういう意味だ?一体何の話をしてんだ?
そう問いたくても、声に出来なかった。
オレ達三人の様子を見て、おっさんはため息混じりに話しだした。
ここでようやく、オレ達が見たものに関する話がされた。


俗称は『生離蛇螺』/『生離唾螺』
古くは『姦姦蛇螺』/『姦姦唾螺』
なりじゃら、なりだら、かんかんじゃら、かんかんだらなど、
知っている人の年代や家柄によって、呼び方はいろいろあるらしい。
現在では、一番多い呼び方は単に『だら』。
おっさん達みたいな特殊な家柄では、『かんかんだら』の呼び方が使われるらしい。
もはや神話や伝説に近い話。
人を食らう大蛇に悩まされていたある村の村人達は、
神の子として様々な力を代々受け継いでいた、ある巫女の家に退治を依頼した。
依頼を受けたその家は、特に力の強かった一人の巫女を大蛇討伐に向かわせる。
村人達が陰から見守る中、巫女は大蛇を退治すべく懸命に立ち向かった。
しかし、わずかな隙をつかれ、大蛇に下半身を食われてしまった。
それでも巫女は村人達を守ろうと様々な術を使い、必死で立ち向かった。
ところが、下半身を失っては勝ち目がないと決め込んだ村人達はあろう事か、
巫女を生け贄にする代わりに村の安全を保障してほしいと、大蛇に持ちかけた。
強い力を持つ巫女を疎ましく思っていた大蛇はそれを承諾。
食べやすいようにと村人達に腕を切り落とさせ、達磨状態の巫女を食らった。
そうして、村人達は一時の平穏を得た。
後になって、巫女の家の者が思案した計画だった事が明かされる。
この時の巫女の家族は六人。
異変はすぐに起きた。
大蛇がある日から姿を見せなくなり、襲うものがいなくなったはずの村で、次々と人が死んでいった。
村の中で、山の中で、森の中で。
死んだ者達はみな、右腕・左腕のどちらかが無くなっていた。


十八人が死亡。(巫女の家族六人を含む)
生き残ったのは四人だった。
おっさんと葵が交互に説明した。
伯父「これがいつからどこで伝わってたのかはわからんが、あの箱は一定の周期で場所を移して供養されてきた。その時々によって管理者は違う。箱に家紋みたいのがあったろ?ありゃ今まで供養の場所を提供してきた家々だ。うちみたいな家柄のもんでそれを審査する集まりがあってな、そこで決められてる。まれに自ら志願してくるバカもいるがな。管理者以外にゃかんかんだらに関する話は一切知らされない。付近の住民には、いわくがあるって事と、万が一の時の相談先だけが管理者から伝えられる。伝える際には相談役、つまりわしらみたいな家柄のもんが立ち合うから、 それだけでいわくの意味を理解するわけだ。今の相談役はうちじゃねえが、至急って事で、昨日うちに連絡がまわってきた」
どうやら、一昨日Bのお母さんが電話していたのは別のとこらしく、
話を聞いた先方は、Bを連れてこの家を尋ね、話し合った結果、こっちに任せたらしい。
Bのお母さんは、オレ達があそこに行っていた間にすでにそこに電話してて、ある程度詳細を聞かされていたようだ。
葵「基本的に、山もしくは森に移されます。御覧になられたと思いますが、六本の木と六本の縄は村人達を、六本の棒は巫女の家族を、四隅に置かれた壺は、生き残られた四人を表しています。そして、六本の棒が成している形こそが、巫女を表しているのです。なぜこのような形式がとられるようになったか。箱自体に関しましても、いつからあのようなものだったか。私の家を含め、今現在では伝わっている以上の詳細を知る者はいないでしょう」


ただ、最も語られてる説としては、
生き残った四人が、巫女の家で怨念を鎮めるためのありとあらゆる事柄を調べ、
その結果生まれた独自の形式ではないか…という事らしい。
柵に関しては、鈴だけが形式に従ったもので、綱とかはこの時の管理者によるものだったらしい。
伯父「うちの者で、かんかんだらを祓ったのは過去に何人かいるがな、その全員が二、三年以内に死んでんだ。ある日突然な。事を起こした当事者も、ほとんど助かってない。それだけ難しいんだよ」
ここまで話を聞いても、オレ達三人は完全に置いてかれてた。きょとんとするしかなかったわ。
だが、事態はまた一変した。
伯父「お母さん、どれだけやばいものかは何となくわかったでしょう。さっきも言いましたが、棒を動かしてさえいなければ何とかなりました。しかし、今回はだめでしょうな」
B母「お願いします。何とかしてやれないでしょうか。私の責任なんです。どうかお願いします」
Bのお母さんは引かなかった。
一片たりともお母さんのせいだとは思えないのに、自分の責任にしてまで頭を下げ、必死で頼み続けてた。
でも泣きながらとかじゃなくて、何か覚悟したような表情だった。
伯父「何とかしてやりたいのはわしらも同じです。しかし、棒を動かしたうえであれを見ちまったんなら…… お前らも見たんだろう。お前らが見たのが大蛇に食われたっつう巫女だ。下半身も見たろ?それであの形の意味がわかっただろ?」
「…えっ?」
オレとAは言葉の意味がわからなかった。下半身?オレ達が見たのは上半身だけのはずだ。
A「あの、下半身っていうのは…?上半身なら見ましたけど…」

それを聞いておっさんと葵が驚いた。
伯父「おいおい何言ってんだ?お前らあの棒を動かしたんだろ?だったら下半身を見てるはずだ」
葵「あなた方の前に現われた彼女は、下半身がなかったのですか?では、腕は何本でしたか?」
「腕は六本でした。左右三本ずつです。でも、下半身はありませんでした」
オレとAは、互いに確認しながらそう答えた。
すると急におっさんがまた身を乗り出し、オレ達に詰め寄ってきた。
伯父「間違いねえのか?ほんとに下半身を見てねえんだな?」
オレ「は、はい…」
おっさんは再びBのお母さんに顔を向け、ニコッとして言った。
伯父「お母さん、何とかなるかもしれん」
おっさんの言葉に、Bのお母さんもオレ達も、息を呑んで注目した。
二人は言葉の意味を説明してくれた。
葵「巫女の怨念を浴びてしまう行動は、二つあります。やってはならないのは、巫女を表すあの形を変えてしまう事。見てはならないのは、その形が表している巫女の姿です」
伯父「実際には、棒を動かした時点で終わりだ。必然的に巫女の姿を見ちまう事になるからな。だが、どういうわけかお前らは、それを見てない。動かした本人以外も同じ姿で見えるはずだから、お前らが見てないならあの子も見てないだろう」
オレ「見てない、っていうのはどういう意味なんですか?オレ達が見たのは…」
葵「巫女本人である事には変わりありません。ですが、かんかんだらではないのです。あなた方の命を奪う意志がなかったのでしょうね。かんかんだらではなく、巫女として現われた。その夜の事は、彼女にとってはお遊戯だったのでしょう」


巫女とかんかんだらは同一の存在であり、別々の存在でもある…?という事らしい。
伯父「かんかんだらが出てきてないなら、今あの子を襲ってるのは、葵が言うようにお遊び程度のもんだろうな。わしらに任せてもらえれば、長期間にはなるが何とかしてやれるだろう」
緊迫していた空気が初めて和らいだ気がした。
Bが助かるとわかっただけで充分だったし、この時のBのお母さんの表情は本当に凄かった。
この何日かでどれだけBを心配していたか、その不安とかが一気にほぐれたような、そういう笑顔だった。
それを見ておっさんと葵も雰囲気が和らぎ、急に普通の人みたいになった。
伯父「あの子は正式にわしらで引き受けますわ。お母さんには後で説明させてもらいます。お前ら二人は、一応葵に祓ってもらってから帰れ。今後は怖いもの知らずもほどほどにしとけよ」
この後Bに関して少し話したのち、お母さんは残り、オレ達はお祓いしてもらってから帰った。
この家の決まりだそうで、Bには会わせてもらえず、どんな事をしたのかもわからなかった。
転校扱いだったのか在籍してたのかは知らんが、これ以来一度も見てない。
まぁ死んだとか言うことはなく、すっかり更正して今はちゃんとどこかで生活してるそうだ。
ちなみにBの親父は、一連の騒動に一度たりとも顔を出してこなかった。どういうつもりか知らんが。
オレとAも、わりとすぐ落ち着いた。
理由はいろいろあったが、一番大きかったのは、やっぱりBのお母さんの姿だった。
ちょっとした後日談もあって、たぶん一番大変だったはずだ。
母親ってのがどんなもんか、考えさせられた気がした。
それにこれ以来うちもAんとこも、親の方から少しづつ接してくれるようになった。
そういうのもあって、自然とバカはやらなくなったな。


一応他にわかった事としては、
特定の日に集まってた巫女さんは、相談役になった家の人。
かんかんだらは、危険だと重々認識されていながら、ある種の神に似た存在にされてる。
大蛇が山だか森だかの神だったらしい。それで年に一回、神楽を舞ったり祝詞を奏上したりするんだと。
あと、オレ達が森に入ってから音が聞こえてたのは、かんかんだらは柵の中で放し飼いみたいになってるかららしい。
でも六角形と箱のあれが封印みたいになってるらしく、
棒の形や六角形を崩したりしなければ、姿を見せる事はほとんどないそうだ。
供養場所は、何らかの法則によって、山や森の中の限定された一部分が指定されるらしく、
入念に細かい数字まで出して範囲を決めるらしい。
基本的にその区域からは出られないらしいが、
柵などで囲んでる場合は、オレ達が見たみたいに外側に張りついてくる事もある。
わかったのはこれぐらい。
オレ達の住んでるとこからはもう移されたっぽい。
二度と行きたくないから確かめてないけど、一年近く経ってから柵の撤去が始まったから、
たぶん今は別の場所にいるんだろな。

posted by オカルト この世の不思議と謎 at 08:15 | 呪い 憑依体験談